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コロナウイルス

(番外)新型コロナウイルス肺炎に対して思うこと

本日 3 月 12 日、WHO が今回の新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)に対して「パンデミック」であると宣言した。遅きに失した感はあるが、いずれにせよ人々は一層不安感を強めているのではないだろうか。この漠然とした不安はどこから来るのかということを考えてみると、一番の原因は「よく分からない病気」だからであろう。そして、実は「よく分からない」のは一般の人々だけではなく、専門家も同じなのである。筆者は、実は医療関係の研究所に勤務する研究者である(ウイルス学の専門家ではないが)ため、どちらかといえば専門家側に含まれると思う。その専門家からみても今回の新型コロナウイルス (2019-nCoV) については不明な点が多すぎるのである。

今回のブログでは、現状分かっている点を記述し、私たちに何が求められているのか、筆者なりの考えを述べてみたい。

(分かっている点)
新型コロナウイルス (2019-nCoV) は RNA を遺伝子としてもつウイルスの仲間であり、外側はエンベロープという殻によって覆われている。エンベロープをもつウイルスは消毒用アルコール(=70% エタノール)によって速やかに死滅することが知られており、今回の新型コロナウイルスに対してもアルコール消毒は有効であるまた、ウイルスと細菌は全く異なる生物であり、抗生物質は細菌にのみ有効である。したがって、新型コロナウイルスには抗生物質は効かない次に、「マスクは有効か?」であるが、市販のマスクのすき間が5マイクロメートルであるのに対し、新型コロナウイルスの直径は0.1マイクロメートルである。50cm の穴に1cm の球が通過するようなイメージなので、ウイルスの透過を防ぐことは難しいように思える。ただし、飛沫(会話やくしゃみ・咳のときに出る唾のこと)は防ぐことができるので、感染者あるいは感染疑いのある者が他人にウイルスをうつさないという意味では効果があるといえる一方、マスクによる感染防御効果については「人混みの中等では、やらないよりした方がマシ」といえる。ただし、その場合はマスクの外側にウイルスを含んだ飛沫が付着している可能性があるので、「マスクの外側は決して素手で触れてはいけない」ので注意してください。あと、感染者がいる(と思われる)場所での最も有効な予防法は「換気」であるのでこれも覚えておいてください。

次に、治療薬についてであるが、残念ながらコロナウイルスに対する特効薬は見つかっていない。しかし、現在、主に3種の薬物について臨床試験が行われている。
1. レムデシビル(米ギリアド社)・・・核酸アナログ薬で日米欧の患者が試験投与されている。元々、エボラ出血熱の候補薬として開発された薬であるが、MERS や SARS といった他のコロナウイルスによる疾患に効果があるといわれており、今回の新型コロナウイルスにも効果があるのではと期待されている。来月の4月より結果報告されるはずである。

2. ロピナビル・リトナビル合剤(カレトラ)(米アッヴィ社)・・・ウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬であり、MERS への有効性は既に示唆されていた。先日のダイヤモンド・プリンセス号の患者にも投与され、良好な結果が得られている。今後、投与する患者数を増やすことによって、より詳細な効果が判明すると思われる。

3. アビガン(富士フイルムグループ)・・・RNA ポリメラーゼ阻害剤であり、元々は抗インフルエンザ薬。効果は不明であるが、もし有効であれば日本発の薬ということで注目したい。ただし、催奇形性があるので、投与対象者には注意する必要がある。

その他、抗マラリア薬のクロロキンや古くから知られている抗ウイルス薬であるインターフェロンの有効性が中国から報告されている。また、武田薬品は、回復した患者の血漿から採取したウイルス特異的な抗体を濃縮した免疫グロブリン製剤の開発が宣伝されている。

ワクチンについては、種々の企業から開発の着手が宣伝されているが、最も進んでいるのは米モデルナ社のメッセンジャー RNA(mRNA)ワクチンである mRNA-1273 であろう。日本のアンジェス社も DNA ワクチンの開発を宣伝しているが、DNA は免疫原性が高いため、そこを克服できるかが焦点である。ワクチンについては、最も進んでいるモデルナ社でもこれから Phase1 (薬の開発は Phase 1,2,3 と進んでいく)に入るということなので、実用化には早くても数年はかかるだろう。

(今後について)
上述したように、薬の開発にはまだ時間がかかりそうである。一方、感染を調べる診断薬については日々ニュースで報道されている。昨日はソフトバンクの孫正義氏が100万人に PCR 検査薬を無償で提供するとツイートし、これは SNS 上で大炎上したようである。また本日は、クラボウ社が PCR を使わない検査薬(=素早く検査できる)を数日中に市販するというもので、株価は早速ストップ高で終えている。皆が検査すると医療崩壊するということで大反対の声が上がっているが、筆者はこの風潮には疑問を抱いている。確かに、イタリアでは、これまでに5万4千件以上の検査を行い、軽症の患者も徹底的に検査したため病床が満杯になったということがある。しかし、検査をしなくては、1. 正確な感染者数が分からない、2. そのため正確な致死率と感染率も分からない、ままということになる。私たちが最も知りたい情報のひとつは「新型コロナウイルス肺炎の致死率」のはずである。もちろん、WHO の HP などをみると致死率は 3.8 % であると掲載されているが、我が国は、人口における年齢比率や基礎疾患比率、大気汚染の状況、医療保険の仕組み、など種々の環境が他国とは異なるため、我が国での新型コロナウイルス肺炎の致死率は 3.8% よりはかなり低いと思われる。しかし、その正確な数値が現在不明であり、これが国民が不安を抱いている原因のひとつではないかと思う。したがって、筆者は検査数は「多ければ多いほど良い」と考える。

ただ、今のままで闇雲に検査すると、医療従事者の負担が増し、病床がパンクすることは皆が指摘している通りである。そこで、今後の対策として、

1. 医療従事者の負担とならない、できれば個人で診断できるような検査薬の開発に国が注力する。

2. 仮に陽性と判定されても、無症状あるいは軽症状の人は病院に行かず、家でじっとしている。

ことにより、正確な感染率・致死率が判明し「正確に恐れる」ことが可能となる。

1. については実際にマレーシアでは個人宅で検査可能なキットが発売されている
2. については、イタリアではこれができなかったためにアウトブレイクが生じたと思われ、各個人の勇気と覚悟が問われているのだと思う。
国は、陽性者が安心して自宅療養できる環境を構築する必要があろう。

昨日今日あたりから、今回の感染症は長引くので上手くウイルスと共存していくことが必要であるという論調が増えてきた。そのためには、敵(ウイルス)を正確に理解し、賢く判断していくことが私たちに求められている。

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